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手書き旅2 南極編 (後半)



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5日目も波乱の幕開け
当初予定していたオルネハーバーへの航路が、強い北風で運ばれた流氷で閉ざされてしまったそうです
そこで予定を前倒しし、ウィルヘルミナベイのクルーズ等に変更されます
「予定変更はいいですが、移動時間のおかげで午前の行動時間が短くなってしまいましたね」
「相手は雄大な自然だから悔やんでも仕方ないずい
それよりもこの時間を大切にいっぱい楽しむずいよ!」
「おや、髄鶴らしからぬ殊勝な考え方ですね、偉いですよ」
「ずへへ、それ程でもないずいよ
それはそうと、なんでこんなに複雑な形状になるずい?」
「そうですね、あちらに説明にいい場所がありますから行ってみましょう」




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「昨日も似た場所がありましたが、このように陸地に降った雪が斜面等を滑り落ちながら圧縮されるのです
そして重みに耐えかねて海に崩れてしまったものが、氷山や流氷となるわけですよ」
「こうずいか? こうずいね?」








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「あそこの雪壁も美しいですねー、形がほとんど崩れずに割れてますよ
辺りを漂う細かい氷同士がこすれる、カラカラ、シャラシャラという音も素敵です」
「あの程度で殴るなんて姉の風上にも置けんずい」








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「こちらの氷山も非常に面白いですよ」
「横倒しになったエリンギみたいずい」
「この氷山は元々、向かって右側の1割ほどが海面に出ていたんでしょうが
溶けたり割れたりとバランスを崩してこのようになってしまったんですね」
「氷山の一角って聞いたことあるずい!」
「こういった不安定な氷山は、いつ回転してしまうか分かりませんので絶対に近づかないようにしましょうね
下から突き上げられたリ、波で転覆する恐れがあるんですって」
「ずいは飛んで逃げるから平気ずいよ」




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本日のお昼ご飯は、船上でのバーベキューパーティー
グリルで豪快にお肉を焼いて貰い、色とりどりの副菜とともにいただきます
そして午後からはエンタープライズ島へ上陸しましょう
「ここはフィヨン湾と言って、スウェーデンの捕鯨船ガバナー号が残された観光スポットなんです
この船体をはじめ、鉄製のコンテナやさびた銛・クジラの骨など、かつてこの島を拠点に捕鯨を行っていた痕跡がこの島にはいくつか残されています」




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「いいですよぉ~可愛いですよぉ~」
「こっち向いてずい! いいポーズずい、素敵ずい!」
「しかしこのウェッデルアザラシさん、逃げるそぶりを見せませんね
それどころか、カメラを向ける我々にポーズすら付けてくれるサービス精神旺盛な子です」
「愛想のいい子ずい、観光客慣れしてるずいかね?」




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夕食後、希望者のみがボートに乗り込みポータルポイントという所へ上陸しました
ここは今までの上陸地と異なり、末端部ではあるものの南極大陸の一部なのです
我々は今夜だけここでキャンプをして野外で眠ります
「髄鶴、もう雪は踏み固めましたか? しっかりと固めないとちゃんと眠れませんよ」
「雪が深いし柔らかいから結構な労力だったずいよ
瘴鶴姉ぇこそおトイレ大丈夫ずいか? いつもみたいに漏らしたら恥ずかしいずいよ」
「失礼な! 出発前に船内で済ませましたよ! いざとなれば先ほどガイドさんが設置してくれた簡易トイレにしますし」
「ゾディアックに積んでたあれずいね…あれはちょっと恥ずかしいずい、そこら辺で済ましちゃダメずいかね?」
「南極はその気温の低さと陸地の少なさ故に、バクテリアが少ないんです
それに以前も言ったように、変な病原菌の媒介を防ぐためにもしっかりと守りましょうね」




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「しかしこんなに眠いのに、まだ明るいずいなぁ…でも時計は23時になってるずいよ…壊れちゃったずい?」
「それは白夜(びゃくや)だからですよ」
「百夜ずいか?」
「いいえ、それは1日中暗い状態が続く冬の現象ですね、白夜はその逆です
太陽がずっと水平線近くを回っているので常に明るいのですよ」
「だから綺麗な夕焼け見た時はあんなに眠かったずいか!」
「今の時期だと、太陽が水平線より下に沈むのは午前2時~4時頃の2、3時間だけですね」
「こんなに明るい中で眠れるずいかなぁ…ずいはテントで寝るずい…瘴鶴姉ぇは寝袋希望してたずいね、寒く無いずいか?」
「顔は多少冷たいですが中は暖かいですよ、せっかくの機会ですからね、南極の空気を感じながら眠りにつきますよ」
「それじゃぁ、おやすみずい」




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幸いな事に夜間の風は穏やかで、知らぬ間にぐっすりと眠いっていたようです
寝袋から這い出して本船へ戻り、すぐに身支度を整えます
6日目の午前は、シエルバ・コーブのクルージングへ出発です
「この入り江も実に美しいですねぇ、正面の島にはアルゼンチン基地が見えますよ!」
「確かに綺麗ずいが…その…ちょっと飽きて来ちゃったずい
毎日、雪と氷に海と空ばっかりで、だんだん感動が薄れて来ちゃったずいよ…」




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「贅沢な悩みですが、気持ちはわからなくもありません
私も少し変わった氷山に目が行きがちですからね
カメラを構える頻度も減ってきた気がします」










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「でもこういう息を飲む美しさには、まだまだ心踊らされるずいよ…」
















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「こんなのも好きずいな
どうやって溶けたかとか、元はどんな形だったか想像するのが楽しいずい!」








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「髄鶴、ヒョウアザラシが居ますよ!」
「あんまり可愛くないお顔ずいね」
「あのアザラシさんはなんと肉食で、ペンギンや他のアザラシを食べてしまうんです、シャチを除けば南極圏最強の動物に挙げられるほどです」
「アザラシってお魚食べるイメージだったずい…」
「他のアザラシと違ってあごが大きく、陸上の肉食獣のような頭骨をしています、可愛くないと感じるのはそのせいかもしれませんね」
「でも人間やずい達は平気ずいよね?」
「いいえ、人間と出会う頻度は多くないでしょうから、彼らにとっては『大きめのペンギン』程度にしか認識していないかもしれません
気を付けましょうね」




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本船に戻り昼食のラザニアを頬張っていた我々は、船内放送を聞いて甲板へと急ぎます
「またザトウクジラさんずいか? いちにーさんしー、4頭もいるずいよ!
写真じゃ追いきれないからデジカメの動画機能で撮るずい」




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午後からはトリニティー島へ向かいました
ボートのエンジン音に驚いて、イルカのように海面を跳ねながら移動するペンギンの群れがを見ながらの上陸です
「ここも大きな島ですねぇ、ほら丘の上にペンギンがあんなにたくさん
浜辺にもいろいろ転がってますよ…」




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「これ、クジラさんの骨ずいね…木製の小舟もボロボロずいな」







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「ここもジェンツーペンギンさんばっかりずいねぇ
ずいは、もっと他のペンギンさんも見たいずいよ?」
「本当はもう数種類出会えるんですが、南極に住むペンギンのなかで暑さに強くて繁殖しやすいのがこのジェンツーさんなんですよ
時期的・場所的に他のペンギンさんは珍しいんです」




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「髄鶴見なさい!
ほら、あそこの雪の上にうずくまってる黒い塊です!」
「あっ顔を上げたずい
真っ黒で小さくて、くちばしも短いずいね」
「アデリーペンギンさんですよ!
目元が私そっくりで、とっても愛らしいですよね」
「他に仲間が見当たらないずいよ…迷子ずい?」




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「静かに、そーっとこちらへいらっしゃい」
「このアザラシさん、歌うようにキュウキュウ鳴いてるずいよ…?」
「寝言なんでしょうか、まぶたや手足が小さく動いてますから、ひょっとしたら夢を見ているのかもしれませんね」




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7日目の朝、船はデセプション島へたどり着きました
ゆっくりと慎重に、島の間をくぐり抜けます
「この辺りは雪がほとんど見当たらんずいな? 岩肌の色もなんだか茶色っぽいずいよ
瘴鶴姉ぇ、ここは何ペンギンが住んでるずい?」




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「愚妹よ、あの浜辺を見なさい」
「ずい…なんか白いもやが立ってるずいな」
「あれは湯気なんですよ
なんとここデセプション島は、温泉が楽しめる場所なんです!」
「南極なのに温泉ずいか!?」
「驚くのも無理はありません、この島は活火山のカルデラ部分が水没したものなんですよ
その狭い切れ目から内湾へ、船を滑り込ませて停泊しているんです
ともかく、水着を中に着て上陸しましょう!」
「巨大なマンハッタンはここにあったずい…!」




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「ずいしょ…ずいしょ…これは重労働ずいね…
でも分かったずい、活火山で地熱が高いから、こうして浜辺に水たまりを作るとすぐに温水プールになるずいな!」
「そろそろ掘れましたか? 私が一番風呂ですよ!」
「さっさと掘るですって!」
深さは僅か20cm程度、温度は30度前後で温泉とは程遠いものでしたが
水着姿で上半身は寒風に震えながら、砂だらけのぬるい海水につかるのも悪い体験ではありませんでした




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温泉で温まるついでに、南極の海での海水浴にも挑戦
流氷だらけの海よりはマシですが、水温はさして高くありません
「ずぃぃぃぃ~! 痛いずい!
寒いとか冷たいとかじゃなくて、体が痛いずいよ!」
「ででででででです、ですすすですってててて」
「そ、そういえば私風邪気味だったんでした、ゴホンゴホン
いやー残念ですねぇ、ゴホン」
「うぅ…10秒くらいしか耐えられんかったずい
1分も浸かってたら死んじゃうところだったずいよ…」




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南極最後の船外活動は、ハーフムーン島散策で締めくくり
上陸した我々を、新しい仲間が出迎えてくれました
「ご覧なさい髄鶴、『チンストラップペンギン』和名をヒゲペンギンさんと仰います」
「お名前通り、あごの下に紐のような髭のような模様があるずいな」
「カラフルではありませんが、おしゃれさんですよね」




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「この島はチンストラップさんの大きなコロニーがあるんですよ
ジェンツーさんよりやや小柄で気が強く、あちこちで鳴いていますね」
「上向いて羽をパタパタさせて威嚇してるみたいずい」




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この島を一望するために、サラサラの新雪を踏みしめて小高い丘に登ります
「ほら、まだまだ先は長いですよ
アザラシさんの写真はほどほどにして、キリキリ登りなさい」
「この図愚姉っ! マンハッタン1個じゃ安すぎたずい」
「しかし運び方に愛がありませんね、もっと背負うとか他に方法があったでしょう」










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「まさしく半月島ずいなぁ、大変だったけど登ってきて正解だったずい
登山中の雲も綺麗な半月型で運命を感じたずいよ」
「ほほぅ、こんなところに苔が…」
「愚姉はほっといてずいはこの島を満喫するずい!」




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「島を離れてから1時間くらいですかね? もう陸地がうっすらとしか見えませんよ…」
「あれ見るずい、あそこにでっかい氷山が浮いてるずいよ
こんな沖合にポツンとあるなんて珍しいずい…これで見納めなのずいなぁ…
きっとずい達を見送ってくれてるずい!
瘴鶴姉ぇ、泣いてるずいか…?」




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「なんだか物悲しいですね」
「もうこれで南極おしまいずいか?」
「あとはウシュアイアまで船の上ですよ…」
「本当に帰っちゃうずいね…飽きたなんて言わずに、もっと楽しんでおけばよかったずい…」
最後の氷山に別れを告げて、船は北北西へと進路を取ります








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8日目、9日目は船内のプレゼンテーションルームにて、これまで我々を導いてくれたガイドの皆さんがそれぞれの分野についての講演会を開いていました
とにかく時間があるので、昼間から甲板でお酒を飲んだり、掲示スペースを改めて眺めたりとのんびり過ごします
「ちょくちょく確認してたずいが、まとめて見るとたくさんの動物さんを観察できてたずいね
ペンギンさんとかもずい達が見てないだけで、他の人は見てたっぽいずいな」
「クジラやアザラシもたくさん出会えましたよねぇ
これ以外にもカモメなどの鳥類系は用紙2枚分くらいありましたよ」
「名前見ても全然ピンとこなかったずいな」







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ウシュアイアへ帰港を明日の朝に控えた9日目の夕刻
船内では船長も参加してのパーティーが開催されます
本来であれば8日~9日朝にかけて、魔のドレーク海峡を越えなければなりませんが
非常に幸運なことに帰路のドレーク海峡は、船長をして『ドレーク湖』と言わしめるほど穏やかに航行できたのです
おかげで皆、穏やかにパーティーを楽しむ事が出来ています
「とっても美味しそうですね、やまとこれ好きです」




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「す、少しくらい分けてくれてもいいじゃないですかっ」
「このお船アイスケーキは全部やまとのですっ!」
「仲良く食べるずい」




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入港まであと数時間
南極旅行の余韻に浸りながら、ラウンジで夜明けを待っていた我々は南米のビーグル水道をゆっくりゆっくりと進んでいました
「美しいずい…」
「ほんの数分前まで紺色のシーツのようだった海面が、あっという間に朱に染まりましたね」
「眠いの我慢して起きてて正解だったずいよ」
「この感動を正確に表現する言葉がありません…」




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「この水道を抜ければウシュアイアですよ、髄鶴楽しかったですね」
「ずい! 別世界すぎて、まるで夢でも見ていたかのようずい」
「ぜひまた行きたいですね」
「…ずいは…少なくとも今はその気はないずい」
「おや、やっぱり飽きましたか?」
「そうじゃないずい! …ずいは南極という特別な場所に身を置いてみて、あそこは観光地ではないと痛感させられたんだずい
また行って楽しみたいという気持ちよりも、気軽に足を踏み入れてはいけない世界だって思ってしまったずいよ…」
「髄鶴…よい経験ができましたね」




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「はー、ほんとに戻ってきちゃったずいなぁ」
「えぇ、久しぶりに土の地面を踏みましたね
次はどこへ旅に出かけましょうか」
「今度は暖かいところがいいずいよ!」
おしまい




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おまけ

南極旅行準備(実体験)




手書き旅2 南極編 (前半)
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